•  京都市における外国人留学生たちは年々増加傾向にある。彼らの抱える「食」のフラストレーションに対してなにかできることはないだろうか。
     「食」というのは特段、自分を作ってきた長年の習慣、日常生活において必要不可欠な要素である。日常的な問題だからこそ、特別な外食や限定的なイベントではなく生活の一部として彼らのよりどころになるものを提案したい。そんな想いから、学生の生活に寄り添う「学食」という形で、留学生たちが「食」への気持ちをシェアできる新しい食堂を考えることにした。

  •  日本で暮らして恋しくなった自国の食べ物は何かをはじめ、自炊の際に欲しくなるものや外食でよく利用する店、また店の選び方など日常の食生活について、京都市在住の留学生たちに協力を得て、食に関するアンケートインタビューを行った。

  •  実施したアンケートインタビューの結果を受けて分かった留学生たちの「ほしい」「日常」
     京都で学ぶ全ての留学生たちを対象とし、出身国、在籍大学の垣根を越えて母国の「食」への気持ちを共有できるシェア学食を提案する。

  •  立地は加茂大橋西詰。
     毎年、留学生在籍数の上位3校に入る京都大学、同志社大学を結ぶ今出川通に面し、他にも留学生在籍数の多い京都情報大学院大学や京都造形芸術大学、京都工芸繊維大学など左京区を中心とする各大学の学生たちにとっての生活圏内を選んだ。
     計画地周辺は、東から流れてくる高野川と西から流れてくる賀茂川の合流点である鴨川三角州があり、学生や親子連れで賑わう市民の憩いの場となっている。

  •  現在BON BON CAFEとして営業されている場所をリノベーションする設定で企画。鴨川を臨むテラス席や、天井が高く開放的な雰囲気の店内を活かした店内を考える。
    (協力:株式会社円居)

  •  アンケートインタビューの中で、多くの留学生たちが学食のことを「大学の食堂」と呼んでいることに気が付いた。また、出身国によって日本語の発音やイントネーションに特徴があり、発しにくい音などもある中で「食堂」という言葉が出身国にかかわらず発音されていたことが印象的であった。呼びやすく、様々な異なる国からの留学生間で共通して通じるような「SHOKUDO」の名前を考える。
    モチーフは鴨の箸置きにお箸を置いた形。箸を使って食事をする国が世界に多数ある中、このように横向きに置く国は日本だけ。提供する食事は各国の母国料理だが、それが食べられる心のよりどころとなる場所はここ日本の鴨川にあるということを感じてほしい。

  •  調査アンケートで挙がったメニューを中心に日本で暮らして恋しくなる母国料理を提供。慣れ親しんだ味に触れることで、離れた故郷を少し身近に感じてもらいたい。
     価格や食事の提供時間など、気軽に訪れてもらえる「学食」として運営するため、各国レストランのような行き届いたサービスはない。選べるメインメニューも少なく、日替わりのメインとおかずバイキングのみに絞った代わりに味は本格的。
     「今日のご飯何かな」と、実家に帰るときのような気持ちで訪れてほしい。

  •  日本人の私たちにとってインスタント麺は、自宅で簡単に食べる安価な食品のひとつであり、わざわざ「インスタントラーメンを飲食店で頼む」というのは不思議に映るかもしれない。
     しかし、中国、インドネシア、ベトナム、韓国、台湾、などインスタント麺の消費量が多い国では国民食ともいわれるような独自の商品があり、食堂や屋台で調理されたインスタント麺が提供されることも多い。このことからカモカン食堂では、各国のインスタントラーメンを持ち帰り用としてだけではなく、その場で調理して飲食してもらえるコーナーを設けた。

  •  週末のディナータイムは、外国の文化や国際交流に関心のある日本の学生や一般の市民まで幅広く対象とし「食」を楽しみながら交流が図れるイベントを開催。 
     食文化を共有し共に楽しむことでその国の特色を知り、他国の文化にも関心を持つなどコミュニケーションのきっかけとなるような場をつくる。

  • ■動線計画
     店内奥にバックヤード、厨房などの従業員導線が配置され、客動線との間にL字型の提供カウンターがあるセルフサービス方式。
    調味料などの物販カウンターとレジは、メインの食事を選び客席へ向かう客動線の妨げにならないようにスペースを確保。
    食器返却口をテラス席側に設け、間口が広く奥行きがあまりない空間に対し一直線の客動線をつくることで混雑を回避する。

  • ■店内パース1 
     内装は、立地である鴨川のイメージからモチーフを選定。ブルーのヘキサゴンタイルがカウンターの前面から床まで流れてくるように貼られ、川の流れ、清涼感を表現。カウンター上部、ロフト席の床は鴨川デルタをイメージしたヘリンボーン張りのウッドで、寒色系、色味のシンプルな空間に温かみをもたせた。
     昼間は自然の採光を活かし、夜には昼と違った雰囲気が感じられる照明計画。メインの大テーブルには、天井のフレームとリンクしたオリジナルの照明器具を設置し、吹き抜け空間にすっきりとした存在感でアクセントを加える。

  •  ■店内パース2
     南面が今出川通に、東面が鴨川に面した開放感のある立地を活かし、人が集うイメージが分かりやすくオープンで入りやすい印象を持ってもらえるようなデザインを考える。
     鴨川に向いた窓側には屋外ウッドテラスとレベルを合わせた造作ベンチを設置した。季節のいい時期には上下窓を開け放ち、京都ならではの床スタイルを楽しむように使ってほしい。

  •  ■平面図
     メイン客席スペースの什器は、授業の合間の短時間に一人で訪れたとき、またはパーティー時の中心としても使用できるような大テーブルをメインに配置。テラス席は、複数名で訪れてゆっくりと食事を楽しむときや、イベント時にはレイアウトを変更することであらゆる人数に対応できる変形テーブルを採用した。
     留学生たちが、店内の様子が分からない店に入ることを私たち日本人以上にためらうという調査結果を受けて、見通しの良いテラス席だけでなく、人通りの多い南面の今出川通に向けた窓に対してカウンター席を設け、通りから見て中に人の集う様子がオープンに分かるような空間を考えた。

  •  ■展開図
     

カモカン食堂—京都市外国人留学生のためのシェア学食—
髙原 萌