• Apple Chairは、やむを得ず伐採されたりんごの樹木から生まれた椅子です。
    青森出身の私が郷土への想いを空間デザインのカタチに残すために模索した卒業制作です。
     大切に栽培されてきたりんごの樹木。
    やむを得ず伐採されたその樹木の新たな価値のひとつとして
    日常生活で使い続けたくなる「無垢材のぬくもりある椅子」へと再生させます。
    りんごの木で作る椅子は、手触りの良さとノスタルジックな風合いが魅力です。
    生活空間での存在感と座り心地の良さから使い続けるほど愛着が湧くことを願い…
    次の世代にも受け継ぎたい想いがこの椅子にはあります。
     りんごの木の良い点も欠点もまるまる含めて、魅力的な椅子として末永く大切に使い続けられるデザインを目指し、企画、設計から製作に至る取り組みを行いました。

  • りんご生産日本一を誇る青森では、近年、農家の高齢化による人手不足によって放置されるりんご園が問題となっています。りんごの木は手入れを怠ると病害虫に蝕まれ、近隣りんご園に感染する恐れがあるからなのです。今年145年となるりんごの栽培の歴史は、病害虫との戦いの歴史でもあり、今もなお重要な課題として研究対策が行われています。

  • 大切に栽培すれば永年樹木であるにもかかわらず、手入れができなくなったりんごの木は、近隣農園の防疫のために伐採整理されてます。そして、その行末は薪やバイオマス燃料として処分されるのです。我が子のように慈しみ育んできた、人生そのものだったりんごの木を周りに迷惑をかけないために、伐採整理し、燃やしてしまう以外に活かす方法はないのか。
    農家の想いを大事にしたい。そんな想いがこの企画のきっかけでもあります。

  • そこで、想いを大事に、地域の持つ力(リソース)によってできることを模索しました。りんごの木材で作る木工製品は、既存の地域の力を活かして丁寧な良品を作ることであり、それが産業のひとつとなり若い世代誇りとなって発展することを理想と考えました。もちろん、簡単にできるとは思いません!しかし、これまでりんごの木材を利用した製品は小物以外はないことからも取り組む価値があるのではないか。木工製品の中でも、生活空間の中で最も人と直に接し、永く使い続けることができるであろう「椅子」が、価値のカタチのひとつとして有意義なモノとなるという仮説を立て、企画、設計、制作に至る取り組みを行いました。

  • コンセプトである「日常生活で永く愛用されるもの」を実現するためのデザインコンセプトです。
    素材・機能・意匠をそれぞれ設定し「心地よさと安心感からいつもこの椅子に座りたくなる椅子」を青森りんごの樹木から生み出します。

  • 素材は、りんごの木の無垢材のみです。
    これまでにりんごの木で椅子などの家具が作られた実績は聞いたことがありません。
    なぜなら、りんごの果実が美味しく生産できるように、木の形を農家の方が長年かけて築く工程からりんごの木が小さな節や割れ、捻れなどが起こり、家具加工に向かない特性があるからです。
    しかし、堅く、きめ細かい木質と素朴な風合いの魅力があります。
    そこで、欠点を補うために同じ材料から合板加工や集成加工を施すことで実現させることを目指しました。

  • 次に、コンセプトの「機能」について説明します。
    椅子の設計のない日本において良い椅子を作るために基礎的検討が必要であり、科学的な検討と分析から1967年小原二郎研究室から椅子のプロトタイプが発表されています。椅子のプロトタイプは日本人の体型から採寸した利用シーン別に6種類があります。今回のAppleChairは、日常的に使う椅子なので、ダイニングや書斎で使う想定のプロトタイプⅡの寸法を設計に取り入れました。

  • コンセプト「意匠」は、青森の素材から引き出し、使うほどに愛らしく思える形状を目指しました。
    この設計に至るまでの工程には、椅子の調査 → スケッチ案から数案のCAD図面作成と模型試作を経て、ようやく1つの案に絞り、そこからさらに「原寸大の図面→模型→CAD」を何度も繰り返しました。
    特にアームの設計はとても難しく最後まで苦戦しました。
    包み込むような配置と、背部はよりスッキリと美しく見えるように、
    手触りを無意識で感じられるように、そして安定性を高く…など、試行錯誤の結果、
    最終的に体の当たる部分は、全体で包み込むような丸みを持たせ、構造部分はより強度を増すように直線的なフレームに仕上げました。

  • ■こだわりのディテールを各所に取り入れました。
    ・体にしっくりとフィットするアール
    ・木製の堅さを感じにくい座刳りの座面
    ・その背もたれと座面をより際立つディテール
    重い材質だったため、少しでも軽やかに見えるように…そんなこだわりを細部に宿しつつ、抜群の安定性のある大丈夫な椅子となりました。
    しっとりとした手触りとノスタルジックな風合いが魅力の椅子が完成しました。

  • ロゴは、シンプルで柔らかな雰囲気に、シンボルは椅子をモチーフに作成しました。

    卒業後は、この椅子をシンボルとして、果樹であるりんごの木のあるべき姿を考えるきっかけとなる活動に取り組んでいきたいと考えております。

Apple Chair – 伐採されたりんご樹木のアップサイクル
小林 和香